昨年の秋頃からウェールズサッカー協会(以下FAW)にてコーチングライセンスの取得を進めている。そして今年に入り、3月からFAW/UEFA Cライセンスの受講が始まった。私が参加しているのは女性限定のインテンシブコースというものだ。元々は月に一度ウェールズでの現地講習に参加しなければならない別のコースに応募していたが、協会側から合宿形式のこちらのコースが良いのではないかとの連絡があり、今のコースに参加することになった。
そして先日、ウェールズにて四日間の現地講習を受けてきた。まだオンラインでの課題や評価が残っているので完了はしていないが、コースのメインパートである実地研修を終えたのでそこでの経験を残したい。学びや気づき、感じたことがありすぎてここで書けるのはほんの一部に過ぎないのだが、私の経験が誰かの何かのきっかけになったらとても幸せなことだと思う。
一番はやっぱり、楽しかった。この一言に尽きる。
正直この現地講習を控えた前1ヶ月、私の感情はジェットコースターさながらに目まぐるしく揺れていた。オンライン講習では情報量の多さに圧倒され、オンラインミーティングでは自分の英語力に辟易し、それでも学びを進めるごとに、どんどんピッチに立った時の景色が変わっていくことに感動する日々。オンラインでの講習は自分のペースで進められるため、正直気楽で、知識が増えていくことがただただ楽しかった。しかし対面講習が近づくにつれて正直不安と期待の二つの塊が身体の中を旋回しているような感覚が常にあった。もっと英語力が付いてから受講した方が良かっただろうか、と思うことも度々あった。一方で今の私だから得られる学びがあるのではないかと、今だからこそチャレンジしたいと思う自分もいた。
そして何といってもヨーロッパに来たことの目的の一つでもあるライセンスの取得をようやく始められたのだから、なんだかんだずっとやりたかったことをやっている楽しさが全ての感情を包み込んでいた。
しかし、その楽しさだけでは今回の講習をこんなにも充実感を持って終わらせられなかった。
私がライセンス取得に取り組んでいることは私のチームメイトの多くが知っている。今度ウェールズに数日間滞在して対面講習に参加するということをチームメイトに話すと、誰もがポジティブな反応を返してくれた。日本人からするとどうしても大袈裟に見えてしまうこっちの人の反応の仕方に、私はいつも助けられている。coolだね、excitingだね、誇りに思うよ、そんな彼女たちの言葉ひとつひとつが、不安から期待に私の気持ちを次々と塗り替えていった。
その中の一人にウェールズ出身の子が居て、その子の存在は今回ウェールズでの取得を決心した一つの理由でもある。さらに今回ウェールズに渡航した際に、彼女のお父さんが生きも帰りも空港での送り迎えをしてくれた。(彼女のお母さんが私と全く同じ期間オランダに滞在するため、空港を行き来するからという奇跡のような偶然も重なり、、) オランダに戻る最終日にはカーディフ市内を案内してくれて、娘が生まれた家や通った学校、街のシンボルである教会を見せてくれた。合唱団に参加していた娘はここに立って歌っていたのだと、教会内で思い出話を語る姿は、ウェールズを選んで良かったと思わせてくれた。よく頑張ったねと、讃えるかのような穏やかな旅の終わりをくれたことに本当に感謝している。
講習中は参加者12名の同志と、意見を共有し気持ちを共有し、ともに学んだ。決して友達のように仲良くなったというものではないけれど、講習の内容だけではなく、各々が身を置くサッカー環境の話や、私生活、家族の話などのたわいのない話もした。現役のプロの選手やお母さんコーチ、FAWの分析官、ロンドンやオーストラリアからの参加者もおり多様なバックグラウンドを持つ参加者が集まった。U9のコーチをすることがきっかけでこのコースに参加したという分析官の彼女は、私が分析について色々と質問すると、いつでも仕事の様子を見に来ていいよと言ってくれた。
講習の最終日には、ペアを組んで、それぞれのトピックに沿ったセッションを考え実際にコーチングをするという課題が与えられた。正直前日の夜からすごくナーバスになった。与えられた20分をペアの人と分割して一人10分。その10分で選手を観察しフィードバックを挟む。どんなに観察するポイントを整理して、与えられそうなフィードバックをシミュレーションしても緊張は鎮まらなかった。最終日の朝、ホテルからグラウンドに向かう道中で(ホテルから毎日参加者に一緒に乗せてもらっていた)、正直めっちゃ緊張してる、と言うと私も!と大体みんな同じ気持ちだった。もうすでにコーチとして長く活動している人でも、自分のコーチングを評価されると言うのは緊張すると言っていた。ああ、みんな同じ気持ちなんだなとなんだか心が軽くなった。それが自分の為に必要なものだと分かっていても、観察されて評価をされるということがこんなにも居心地が悪いことだということ、この気持ちはコーチを続ける上で忘れてはいけないと感じた。
少し話は変わるが、オランダに来たばかりの頃、コーチになることに逸る私に、君はまだ若いから選手としてもっとやりなさい。それがコーチになる一番の道だ。と言ってくれた人が居た。当時はその意味が全く分からず、出鼻を挫かれたような気持ちになったが、ようやくその言葉の意味があの最終日に少し分かった気がした。選手から見える景色とコーチから見える景色。生まれる感情。私はもっと両方の景色を知る必要がある。
最終日、ペアに分かれてはいたものの、コートの設置を手伝ったり球拾いをしたり、アドバイスしあったりと、みんなでこの時間を良いものにしようと一つのチームになったような感覚だった。講習全てが終了し、半分くらいの参加者とパブに移動して乾杯した。今後もライセンスの取得を進めていくか、コースの費用や内容、自分のチームの話などここでも色々な意見を交換し、とても有意義な時間になった。サイダーを頼んで、「ハイネケンはもううんざりだから」でひと笑い取ったこともここに記しておきたい(笑)
また次のコースで再会できたらいいねなんて別れ際にみんなで言い合った。最後パブからカーディフ中心地のホテルまで送ってくれた参加者の一人は、選手を続けながら女子チームのコーチをし、大学の講師として働いているそうだ。道中、選手の保護者とのコミュニケーションでの苦労話をしてくれた。内容はかなり大変そうなものだったが、それでも子供たちの成長とサッカーを楽しむ姿を見れるコーチの仕事が大好きだと言っていた。
一人でも二人でも、また一緒に学び合えたらすごく素敵なことだと思う。今回のような女性限定のインテンシブコースを、次のBライセンスでも開催することを前向きに検討していると、終わり際に講師の方が言及していた。
”何を学ぶか”も大事だし、次のステップももちろん楽しみではあるが、”誰と学ぶか”も学ぶことの大切な一部になるのだと今回学ばせてもらった。
たくさんの情報と学びが今、私の目の前に大きな棚としてただ立っている。そんな感覚である。今はこの目の前にある棚の引き出しを一個一個開けてピッチに持っていき試していく、そんな作業をようやく始められるようになった。この棚が私の内側に立つようになった時が今回の学習の成果ではないかと、そんなことを感じている。