U20女子W杯コスタリカ2022 雑感②/欧州勢とアメリカの特徴と日本との違い編

サッカー

前回に引き続き、今回は欧州勢とアメリカの特徴、そして日本代表について書いていきます。

育成の結果が出るのはこれから

私の浅薄な印象論であることは否定できないが、色んな国の若い年代の試合を見て各国がどんなコンセプトを持って育成に取り組んでいるかを何となく感じられる。アメリカのサッカーについて前の投稿で書いた通りだが、ではフィジカル面では秀でていても組織としての未熟さがそれを上回り、まさかのGS敗退に終わったアメリカをあまり強くなかったねで終わらせられるかというとそうではない。端的に言うと、アメリカの育成の成果が出るのがもう少し先だっただけ。ボールを運ぶ、動かす、ゴールを目指すプレーの合理性といった個人戦術のレベルはだいぶ高く感じた。足元の技術や細かな連携がやや力不足だった。同じくGSを敗退したドイツにも同じことが言える。なぜそのように感じたのか、欧州勢とアメリカに共通している点や日本との違いから説明したい。

欧州勢やアメリカに感じるサッカーへの理解度と日本との違い

欧州各国とアメリカ代表に共通する特徴として、「パスのスピード&レンジ」「判断スピード」「サッカー理解」の3つが主に挙げられる。そしてこの3点は日本と大きく違うところでもある。

日本との間に生まれるこの違いはプレーのファーストチョイスに対する考え方によるものだと感じる。日本はどちらかというとボールを失わないことの優先度が高く、パスを繋ぐ技術、失わないための周りのサポートは参加国の中でも秀でている。日本の選手たちのサッカーへの理解度が低いのかと言われるとそうとも言えない。「日本のサッカー」に対する理解や戦術の遂行能力は相当なレベルであるというのは言えると思う。欧州やアメリカが考えるサッカーの上手さと日本で言われる上手さがそもそも違うということもあるので、理解度を比較するのは難しいことなのかもしれないけど。。

対してアメリカやメキシコ、ブラジル、欧州勢はゴールへの意識が強い。ペナルティエリア外のシュートも多少体勢が悪くても機会を逃さず打つ。また、相手にとって効果的(脅威的)なプレーを常に最初に選択しようとする。FWに楔を入れる、ニアゾーンに走り込む、サイドチェンジ、守備が整う前のクロス、これらのプレーがゴールに繋がること、相手にとって嫌なプレーになることを分かっている。だから、動き出しやパスを出す、クロスを上げる、シュートを打つといった判断が早い(自動化されているとも言える)。サイドのスペースに抜け出た時に走りながらそのままワンタッチ、もしくはトラップから持ち出して相手を抜き切らずにクロスを上げるというシーンが上に挙げた国では圧倒的に多い。そしてそのタイミングでクロスが上がってくることが当然のように常時2人以上がゴール前に飛び込んでくる。

対して日本の選手は良くも悪くも「考えて」プレーしている。相手をしっかり見て、確実性の高いプレーを選んでいる。まさに日本サッカーの教科書のようなサッカーだった。味方に確実にパスをする技術で言えば3カ国の中で1、2位を争うレベルの高さだろう。その反面、シュートやクロスの機会を逃したり、ボールを放すのが遅く感じるシーンが多い。考えてプレーしている分判断がやや遅く、良く言えばボールを握り支配できているのだが、相手が対応しうる範囲でただボールを持ち続けているとも言える。先に述べたFWへの楔やニアゾーンへの走り込み、サイドからのクロスなどは日本にも多く見られるプレーではあるが、コンマ何秒のプレースピードの差が相手に与える脅威を低減してしまっているように見えた。

これは近年日本と世界との比較の際によく言われるサッカーの理解度と育成形態に起因するものだと考えられる。育成年代で試合状況から切り離された技術練習や思考や判断を伴わない反復練習に多くの時間が割かれている日本。ボールを上手に扱うことを真っ先に覚え、その後で認知や状況判断力を身に付けるというあべこべは育成年代後のサッカーのレベルに大きく影響しそうだ。現時点では他のどの国を見ても日本の足元の技術の高さというのは秀でており、大きなアドバンテージになっている。が、フル代表を見ていて分かるように数年もすればこの日本的な視点で言う技術というものの差はあっという間に埋まってしまう。もっと言えば現時点でもスペインやブラジルの選手たちはすでに高い技術を持っている。

状況判断の話に戻す。例えば、サッカーをやり始めた頃から「スペースを持った味方に素早く展開することは有効である」といった認識を持つと、そのような状況に出会う度に少しでも速いパスを出そうとするだろう。その機会を何度も経験することでどのようにボールを蹴れば良いかは後から自然と身に付いてくる。いくら指導者がパススピードを上げろ!!と言いまくったところで、いつ速いパスが必要なのかを理解していなければ、言われた瞬間は速いパスを出すことができたとしてもそれは身に付いたことにはならない。

その時点での技術の有無に関わらず、サイドチェンジが有効であることやスペースを持った味方に素早くボールを渡すことの重要性を知っているということがとても大事なことである。アメリカは確かにパスミスが多かった。しかし、そのほとんどは技術的なミスであり、受け手のポジショニングや出し手の意図つまり状況判断は間違っていなかった。日本の選手と比較すると蹴り方は綺麗ではない。それでもセンターバックから逆のサイドハーフへの見事なロングフィードやサイド深くからのドンピシャクロスがどの試合でも見られた。ワンプレーで局面を大きく変えることのできるダイナミックさは会場を盛り上げた。フル代表のアメリカが目指すハイテンポなサッカーを体現しようという意識は強い。あとは成功率を上げるだけで、今の世代がフル代表の中核になる5年後、いや早ければあと1、2年もあれば彼女たちは様変わりしているかも知れない。

サッカーの理解力の違いは「パススピードとパスレンジ」に繋がる。状況判断がしっかりしているとパスに意図が生まれ、そのことが状況に応じたパスの緩急や受け手のポジショニングに繋がる。アメリカやスペイン、ブラジルの選手は安易にボールに寄ってこない。むしろボール保持者からある程度距離を取ることでスペースを作り、ボール保持者に前に運ぶ選択肢を与えたり、自分とマークとの距離を取ったりしていた。日本は言葉通りの細かいパスワークが目立ち、選手の距離感があまり崩れることなく攻撃でもコンパクトな印象を受けた。対してアメリカやスペインはライン目一杯に幅を取り、そこに速いパスを差し込んでいた。選手の距離感が遠くなるとパスのレンジも広くなるというのは自然なことだ。アメリカに感じたダイナミックさはこの選手の距離感によるものだろう。

ここからは少し日本にフォーカスして話す。

サッカーに絶対の正解はないので、前述した欧州勢やアメリカとの違いがイコール日本は弱いになるとは限らない。現に日本はGSを3連勝で突破した。アメリカとの試合でもフィジカルの差を組織力と戦術遂行力でカバーし、相手のウィークであったDFラインの隙をしっかり突いてチャンスを決め切り3-1で勝利した。決勝トーナメントでより拮抗してくる相手にどのような戦いを見せるのか楽しみである。

GSの3試合を見て、コンパクトな陣形から細かいパスと連携でゴールに向かう日本のサッカーはどこの国とも違う独特なものに見えた(韓国とは似ていたが)。繰り返しにはなるが、プレーの確実性と相手に合わせて考えてプレーする能力に優れた選手が集まっている。日本国内ではこの「考える」スピードがより早い選手がトップトップの選手になっていくのだろう。しかし世界に出た時に、日本がどこまでこのスピードを高めようと、「考えない」プレースピードに勝ることが果たしてできるのだろうか。

話は少し変わるが、3~4年前に女子のCLのバルセロナの試合を見た。普段から欧州の男子サッカーを見ているせいかその試合は退屈で面白いとは思わなかった。「やっぱり女子は遅いな」というのが一番の感想だった。その当時はその遅さを女子と男子のフィジカルの差だと考えていたが、今になってフィジカルというよりはプレースピードの差によるものだったと分かる。先月行われた女子EUROもアメリカ代表の試合も、ハイテンポでボールと人がよく動き、オートマティックな連携プレーは見ててワクワクした。(もちろんフィジカル面での成長も著しいのだが)

ハイテンポを生み出す根底にあるのは状況判断と考えないプレーである。その時々の状況に合う最適なプレーは分かっているため、あとは目の前の状況に合わせて判断するだけ。

日本サッカーはこれからどこに向かっていくのだろう。この大会後に日本の女子サッカーに残る伸びしろはなんだろうか。他の国を見てそれぞれの国の伸びしろは結構分かりやすいし、よりレベル高く、面白いサッカーになる展望があるのだが、日本についてはなかなかそれが思い付かないのは私の見識不足のせいであってほしい。アメリカ戦では近い距離のパスが長い足に引っかかり中盤でのボールロストが多かったが、それをかいくぐる細かいパスワークを極め続けるのか。言われた通りに遂行できる能力に賭けて、完璧な戦術を準備し続けるのか。フィジカルの差というテーマをいつまでも議論し続けるのか。日本サッカーの概念を再構築し新しい道を探すのか。

来年にはオーストラリアとニュージーランドで女子W杯が開催される。今回見た選手たちが皆出場する訳ではないが、各国が育成からどのように成熟するのか今からとても楽しみである。どの国にも目指しているサッカーの根っこの部分がU20でも感じられ、徹底して理想にチャレンジする姿勢がうかがえたからだ。特にアメリカを筆頭にチームのコンセプトが強く意識されているであろう国ほど失敗を恐れずに、自分達が目指すサッカーをやり続けていた。決勝トーナメントには納得の強豪が残った。世界の育成年代の試合をこんなに見れるチャンスはなかなかないのでまだまだ楽しませてもらいます!!

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