前回の続きです。
半年ちょっとのコスタリカでの経験を振り返り、まず感じるのは自分の能力を存分に発揮できなかったということ。なぜ発揮できなかったのか、内と外から考えてみた。
内的要因を自分自身の至らなかった点とすると、チームに合わせたプレーと自分の得意なプレー、この二つのバランスをコントロールできなかった。それができないことによるメンタルの不安定さの二点にまとめられる。
外的要因を自分ではコントロールできない点とすると、チームの戦い方(戦術とはちょっと違う)が自分のプレーに合わなかったこと、チームの経営状況や資金力不足が挙げられるだろうか。
新シーズンの始動前にチームからいくつかのスポンサーが離れベテラン選手や前季の中核であった選手が抜けてしまったらしい。戦力は私を含めお金のかからない若手選手が中心になった。どの試合も個の能力、特にサッカーに対する理解度や熟練度における差を感じることが多かった。リーグ戦では運も味方して上位につけたが、トーナメントになった時に若いチーム故の未熟さが身に染みて分かった。
チームの戦い方にも柔軟な対応(というよりはもう流れに合わせるので精一杯)が求められた。そもそも練習で次の試合における戦術的な意図が分かりにくかった。これに関してはどうしても言葉の壁があったので私目線でしか語れないが、練習と試合でやろうとしていることがまるで違うなんてことが多々あった。FWのポストプレーから中盤のサポート~のような流れを何度も練習で確認していたのに、早々に繋ぐことを諦めて前に蹴りまくるなんて展開が多く、監督が何を目指しているのかまるで分からなかった。
コスタリカの多くのチームで、「繋がり」が感じられるプレーは少ないように感じる。特にドリブルが得意な選手は顔が上がらず自分がボールを持っていることに集中してしまう。これは日本と似た傾向だ。
とにかくパスを受けられる機会が少なかった。同じくらいか格上の相手だとハイプレスを受けることがほとんどであるが、低い位置でボールを失うことを恐れるようになると、DFラインの選手は顔が上がらずいち早く前線に蹴り出すようになる。そうなるともう”中盤で正確にパスを散らせる選手”に需要がなくなり、必要なのは前と後ろに間伸びした広大なスペースで一生懸命守備する中盤になる。呼んでもパスが受けられない、もはや目も合わない。前線の選手は球離れが悪くどんどん選択肢を失くしてしまう。相手ボールになったら中盤は常に数的不利で予測も立てられず遅らせるまたは追いかけるので精一杯。それでもボールに強くアタックしろと文句が飛んでくる。なんて理不尽な世界なんだと何度も試合中に絶望した。それでもピッチに立つ以上はその中で出来ることをやり続ける他にない。
順位だけを見ると上位で終われたことに間違いはないが、サッカーができた感はあまりなかったというのが正直な感想だ。それでも上位だったというのはサッカーの面白さとも言えるが、リーグ戦もその後のトーナメントでも圧倒的な強さを見せて優勝したアラフエラのサッカーを見たら、サッカーの成熟度は一目瞭然であり結果だけでは測れない大きな差を感じる。
ここまで文句ばかりの内容になってしまったが、どんなに絶望しても笛が鳴った時に勝っていたらめちゃくちゃ嬉しかった。負ければ気分は最悪だった。いっぱい文句が出てくるけども、結局は自分にできることがもっとあるはずだという結論に落ち着いて、また次の練習に向かう。そんな日々が好きである以上、サッカー選手を続けるしかないんだと思う。
また、競技環境や生活環境から受ける影響の大きさも学んだ。ただでさえ少ない給料、その支払いが遅れるとなるとモヤモヤするし、そのくせ練習の欠席や遅刻は罰金だとか(日本では考えられないが結構サボる人が多い)もっと頑張れだとかスタッフ側から言われるとそっちはどうなんだと言いたくなる。こんな言い方だと、自分がサッカーやりたくてやっているんだろうと言われそうだが、その理論が通じるのは高校や大学までだったんだなというのは自分でも意外な発見だった。サッカーを”やらせてもらっていた”のはそこまでのことで、職業をサッカー選手にした以上、生活がかかっているというプレッシャーはストレスになり易いのだと実感した。
前は、どうしたら女子サッカーが発展するのか、もっと人気が出るのかを考える時に、選手がもっと上手くなって面白いサッカーを見せれなければ、選手が頑張らないと、と考えていたけれど選手個々人のやる気や努力に任せっきりというのは無理があるような気がしてきた。本気で発展させたいと考えるなら、女子サッカーに関わるあらゆる役職(選手・指導者・フロント・広報等)がもっとプロ意識を持たなければならない。
役職間でプロ意識をぶつけ合い、相乗効果を生み出していくことがコスタリカも、日本も、他のあらゆる国における女子サッカーの真のプロ化につながるはずだ。欧州では、本気で取り組めば女子サッカーにも男子に匹敵さらには上回るほどの観客を呼ぶことができるということが証明された。プロになったからプロ意識を持つのではなく、プロ意識を持っているからプロであるということを最近よく考える。
話を戻す。コンディションについても海外での一人暮らしで困難が多かった。数ヶ月前に引っ越しをして新しいアパートに移った。コスタリカでの生活にも慣れてきた頃で油断していた。初めは白湯や紅茶にしていたが、ちょっと暑い日が続いた時に水道水をそのまま飲んでしまった。引っ越しをしたその週末の試合で腹痛に襲われプレーできなくなった。水のせいなのか、野菜か果物か、本当のところは分からないが最大限の用心が足りていなかったことを反省した。
以上、駆け出しはこんな感じ。今までは見えてなかったのびしろがたくさん見つかったそんな始まりになった。いきなり現れた外国人選手をたくさん試合に使ってくれた監督。ボードを使って何度も説明してくれたコーチたち。優しくしてくれたチームメイト。生活の世話をたくさんしてくれた代理人やその家族たち。他にもいろんな繋がりで出会えたコスタリカの人たちにたくさん助けてもらって大好きなサッカーをすることができた。もちろんまだまだ世話になりっぱなしの両親にも。このことがどれほど幸せで恵まれていることか忘れないようにしたい。
日本と海外が違うのは当たり前。海外でプレーする上でその違いをどうやって乗り越えるのか、”こうすれば誰でも乗り越えられる”という正攻法は無いと思う。正面から立ち向かうのか、上手く交わしてすり抜けていくのか、国やチーム、場所や時間によってそれは人それぞれだ。だけど、他の人の経験を知っておくことで違いに直面した時に、ちょっと心が軽くなったり乗り越えるヒントが見つかったり、心の準備ができたり、とにかく損は無い。そんな思いで今回は書きました。
コスタリカの女子サッカーはもっと発展できる。このことは確か。来週からはU20の女子W杯がコスタリカで開催されます。大会が無事に成功し、ますます女子サッカーが発展できますように。